コラム「さくら通信」

Vol.4

タイムマシン

 気がつくと、正月休みも今日で終わり、明日から仕事が始まる。
私に限らず、毎年一年間が実際よりも、短く感じている人達は多いと思う。
何故、歳をとると一年(時間の経過)が早く過ぎ去るように感じるのだろう。
最近までは、現在の年齢に対しての1年間だからと考えていた。
例えば、5歳だとすると、5年分の1年で、20歳だと20年分の1年だから、歳を重ねていくと、どんどん一年が短くなってくる。
でも、どうやらこの考え方は、大きな間違いである事が分かった。
自分なりの解釈もあるが、時間は条件によって、長く感じたり短く感じたりする。
また、人それぞれ、時間に対する感覚には違いがある。
しかし当たり前だが、実際の時間は早くなったり、遅くなったりはせず、いつも同じ速度で時計の針は進み、変わらない。
条件に関わらず、歳を重ねると一年間が短く感じられるのは、どうやら自分の感覚(体内)時計の速度が遅くなってきているかららしい。
どうして遅くなるのかは、老化に関係していると思う。
特に私は、老化の速度が実年齢より進んでいるのではないかと懸念したりする。
きっと今年も「もう12月なのか、一年は早いなあ」と言っているに違いない。

 毎日、接客の仕事をしていると、時々「もう何年ぐらい、この仕事をされているのですか?」とお客様から聞かれたりする。
その時に勤続年数を答えると、大体「じゃあ、ベテランなんですね」と言われる。
そんな時、なんとなく、複雑な心境になってしまう。
「長らく同じ職業であるのが、良いことなのか、悪いことなのか」
きっと、両方とも正しいと思う。
今振り返ると、一年どころか、あっと言う間に過ぎ去った感覚さえする。
 私がこの仕事に就いた頃は、まだまだ全体では耳掛式の割合が大きく、耳穴式ではモジュール式(機器部分は完成品で、後からイヤモールドを取り付けるタイプ)が多く、全部注文で作製する耳穴式は少なかったように記憶している。
価格的には、耳掛式が6万円〜8万円台で、モジュール型の耳穴式が10万円前後。
注文の耳穴式は15万円〜16万円ぐらいで、同じ価格帯でメガネ式の骨導補聴器などもあった。
当時、この辺りの価格を含めた説明をすると、驚いて表情が一変するお客様も少なくなかった。(想像していたよりも、高価な物と感じられた)
すべてアナログ式なので、調整はマイナスドライバーが一本あれば大抵できる。
実際に、どのような音(特性)が出ているかは、試験機で調べないと分からない。
確かに前世紀の話ではあるのだけれど、今と比較すると隔世の感がある。
現在、補聴器の主流はデジタル式で、通信販売などで扱っている廉価な雑品は別として、ほとんどの価格帯で商品が揃ってきた。
性能や調整に付加価値の機能は、同じ価格のアナログ式とは比較にならないほど良くなっている。
ちょっと大袈裟に聞こえるかも知れないが、外見に大きな違いはなくても、中身については、似て非なる物と言って良いぐらいで、日進月歩で向上されている。
それに伴い、フィッティング(適合調整)をするのに、コンピューターは欠かせない道具になった。コンピューターがないと調整ができないし、また扱えない人には、補聴器の仕事はできない。
未来の補聴器を考えた時、もしタイムマシンがあって、20年〜30年ぐらい先に時間を進められたなら、補聴器とその周辺は一体どうなっているのだろうか。
逆に現在のデジタル補聴器を持って、アナログ補聴器時代に戻れたなら、どうだろう。
あの時、フィッティングで諦めてもらうしかなかった、ユーザーの人達を喜ばせられたと思う。(特にオープンタイプと呼ばれる補聴器はここ数年の新機種で、アナログ時代には存在しない補聴器)
 時と共に変わったのは、補聴器ばかりではない。
補聴器についての教育(講習や試験)なども、テクノエイド協会を中心として、年々受講者を増やして整備されてきた。国家資格までの道のりは遠いかも知れないが、いずれ一定水準の知識や技能を有した人だけが扱える物になる事を願っている。
補聴器を扱う仕事から、耳鼻咽喉科の連携は不可欠で、安心して使用してもらうには、医師の診断や指導が必要になってくる。医師の中には、補聴器技能者よりも補聴器に詳しい方もおられて、私達も驚いて、勉強不足を痛感させられる事があった。
最近はお客様も補聴器の知識を得てから、来店されるのが少なくない。
昔は全くと言っていいほどなかったが、今はお客様からメーカー名を示されて、質問される事だってある。補聴器の価格を聞いて、驚く人も少なくなった。

 補聴器の性能、技能者教育と耳鼻咽喉科の連携、お客様の意識など、私がこの仕事を始めた頃から思うと、大きく変化したのは間違いない。

 しかし、長年の間、変わらないのもある。それは、国の補聴器交付制度だ。
制度の名称や方式に若干の変更はあったが、骨格は変わっていないと言っていい。
因果律の法則を無視して、21年前に戻れたなら、そこには、今と大して変わらない説明をしている新入社員の自分が居るはずだ。

〈門脇貴之〉